2023年9月17日日曜日

ラピュタの塔のルート

小川山でラピュタの塔のルートを登った。

ラピュタの塔というエリアは、キャンプ場の対岸、父岩の上の方に位置する。フロンティアスピリッツのガイドブックでは、アプローチ難易度が高いことになっている。遠くはないけれど、踏み跡不明瞭で確かに歩きにくいし、分かりにくい。ガイドブックの写真をよく見て、目印を見落とさないようにしたい。迷わなければ、駐車場から20分くらい。ここに、《ラピュタ》というルートがある。グレードは5.11c。《ラピュタ》は國分誠さんによって拓かれたルートだ。僕は普段は國分さんのルートは選ばないようにしてるんだけど、フロンティアスピリッツのガイドブックで内藤さんが「岩が綺麗なら⭐︎⭐︎⭐︎」と言ってて、「何もないスラブ」を登るという説明に惹かれて、見てみることにした。 

初日は、8月上旬。行ってみて、困った。ガイドブックに掲載されているトポと現状が一致しない。中間部に水平クラックが走っているのはトポの通りだが、その上下のスラブ面の右端に溝状のクラックがある。また、最上部にもスラブ面の右端に溝状のクラックがあり、そのすぐ左にラピュタのものではないボルトがある。右のルートがカンテを跨いでスラブ面に入り、クラックを超えてきている模様。さらに最も困ったのが下部で、ボルトの左に顕著な剥離フレーク状のホールドが多数ある。「何もないスラブ」という説明と一致しない。  なお、内藤さん独特の丸い岩を平面に直す方式により斜めのラインに見えるけれど、実際はボルトは真っ直ぐ上に伸びている。



登ってみると、下部は顕著なホールドを辿って10台前半か5.9。水平クラック下の溝は使っても使わなくても同じ。水平クラック上の溝も、使っても使わなくても同じ。上部はけっこう難しくて、5.11はありそう。最上部の溝を使うと難しいムーブは一つだけになって10台に収まるけど、この溝が限定であることは明らか。クラックのこっち側に右のルートのボルトがあるから。

最上部の溝は限定で、ということは、國分さんだったら水平クラック上下のクラックも限定ということにしそうだけど、ここは難易度が変わらないからどっちでも良い。大きな問題は、下部のラインどりということになる。ボルト左の多数の顕著なホールドを使うのか、使わないのか。普通に考えたら使うんだけど、これは國分さんのルート。ボルトから一切逸れずに一番難しいところだけを使って登るという設定もあり得る。使ったら5.9か10台前半、使わないとかなり難しい。さてどっち?

というところで初日は終了で、こういう時はまずは原典に当たることになる。フロンティアスピリッツのガイドブックではラピュタの塔は「1989年にチームRPにより開拓・発表された」と書かれている。1989年の岩と雪のうち2冊が家にあったので確認したけど、情報はなかった。クライミング・ジャーナルにも情報なし。それで、残りの1989年の岩と雪を確認するために都立多摩図書館まで行ったけど、情報なし。ここで行き詰まったので、最後の手段として、家にある岩と雪を端から全部読んで確認することになり、見つけた。岩と雪150号(1992年)。 このエリアの開拓は確かに1989年に開始されていたが、「1989年にチームRPにより開拓・発表された」というフロンティアスピリッツのガイドブックの記載は正確ではない。発表は1992年。ガイドブックは出典の表示をしてほしい。内藤さん、お願いします。




さて、岩と雪150号に掲載たれた記録によると、ラピュタの塔が開拓されたのは、1989年から1991年。開拓チームは、チームRPの國分誠他。《ラピュタ》、《シータ》、《パズー》、《うつるんです》の4本のルートが紹介されている。《ラピュタ》のグレードは5.11b/c。フロンティアスピリッツのガイドブックの5.11cは内藤さんによる評価だろう。岩と雪150号における《ラピュタ》の説明は、「スメアでスタートし直上。中間部の小ハング上にバランスで立ち込んだ後、微妙なスメアで核心へと向かう。最後まで気が抜けない。設定=國分、小暮、村上。初登=’89年8月14日、國分」。 

これを踏まえてルートの内容を考えると、「スタートし直上」の記載から、下部の左の顕著なホールドは全部限定であろうと推測できる。また、水平クラック下の溝も限定だろう。ボルトラインとクラックとが離れているから。水平クラック上の溝はトポに描かれていないが、そこには右のルートが入ってきているので、これも限定だろう。そして、最上部の溝も当然ながら限定。ということで、要するに、いろいろある顕著な岩の特徴は全て限定して、ボルトから逸れずに登る設定である。なんとも國分さんらしいルート。唯一分からないのは、上部で「核心に向かう」との記載。下部左のホールドを全部限定したら、核心は確実に下部。下部に比べると、上部は易しい。もしかしたら、下部左の多数のホールドのうちの一つないしいくつかは使う設定なのかもしれない。

迎えた2日目は8月下旬。結論から言うと、下部左のホールドは限定せず、水平クラック下の溝は(自然と)使わず、水平クラック上の溝は使い、最上部の溝は(限定して)使わずに登った。なんとも中途半端なクライミングになった。しかし、割り切って考えれば、疲れた足先で我慢してリップにデッドを叩き込む大変充実したクライミングではあった。僕が登ったルートが《ラピュタ》なのかどうかは知らない。多分違うと思う。なお、登った後に、下部左の顕著なホールドを全部限定してやってみたら、ムーブはできた。そして、けっこう面白い。 

この岩の登り方はいくつかある。一つ目は、何も限定せずに登るやり方。スッキリしててとても良い。しかし、わざわざここまで歩いて、その内容のルートを登る必要がるあるか疑問を感じずにはおられない。10台の良いスラブは他にもたくさんある。二つ目は、最上部の溝だけ限定して、あとは使っても良いことにするやり方。これは中途半端。三つ目は、最上部の溝と、水平クラック上下の溝を限定するやり方。水平クラックの上だけ限定とか下だけ限定とかを三つ目のバリエーションと考えても良い。どれも中途半端。四つめは、全部限定して登るやり方。ある意味では潔くはある。しかし、下部左のホールドをどこまで限定するかはハッキリしない。ボルトラインから〇〇cmまでしか使わないといった決め方が必要になる。5.11cとして登るにはこれは使えないみたいな本末転倒な考え方だ。使うホールドの15cm横のホールドに手を出さないシュールなクライミング。 そのシュールさが気にならなければ、面白いスラブのムーブを楽しめると思う。

と言うことで、結局はよく分からないクライミングで、國分さんのルートを登らない理由を再確認することになった。できることならば、目の前の岩をあるがままに登りたい。もちろん、初登者のクライミングを追体験するという楽しさもあるのだけど、この岩では難しい。イマイチなクライミングだったなと思いつつ家に帰ったんだけど、そこで思いついた。この岩はボルトなしで登れば面白いんじゃないだろうか。水平クラックをトラバースするだけでも易しいルートとして成立しそう(トラバースしてカンテまでたどり着いたあとどうなるかは知らない)。ラピュタのラインも、下部は限定せずに5.9くらいをノープロで水平クラックまで行って、そこにプロテクションをセットして上部のスラブを登ると充実しそう。溝は全部使うと10台前半ということになりそうだけど、溝がプロテクションを受け付けてくれるかは分からない。溝を限定すると、リップへのデッドポイントでしくじってグラウンドフォールするかしないかの瀬戸際(たぶんする)という、エキサイティングなクライミングになりそう。さらに、フロンティアスピリッツのガイドブックでは分からないけど、國分さんのトポでははっきりとわかるように、このルートの右下にハングがあって、ハングの中にはスモールカムかナッツを受け付けそうな箇所がある。このハングから入ってスラブにズリ上がるラインを登れればなお良い。

どなたかどうぞ。